宇都宮地方裁判所 昭和33年(わ)255号 判決 1958年11月19日
被告人 薄羽長雄
主文
被告人を懲役二年に処する。
本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は肩書住居地で農業を営むものであるが、昭和三十二年十二月十四日栃木県大田原市中田原一三九二番地の一小田部芳子方で行われた部落有志の集いである庚申様の講会に列席していたところ、同日午後九時頃右講会に居合せたA(当四十五年)が帰途につくと相次いで席をはずして帰途につき、同女と相前後して右小田部方より西南方約百米の同市中田原横山一夫方附近道路上に到るや劣情を催しAを強いて姦淫しようと企て、同女に「よかんべ」「よかんべ」と言い寄ると共に同女の手を掴んで右道路より東南方約五十米の田圃内に連れ込み、同所に仰向けに倒して馬乗りとなり同女の反抗を抑圧した上強いて姦淫しようとしたが、同女がいま月経だから駄目だと告げるに及び、姦淫することを諦め、その目的を遂げなかつたものである。
(証拠)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法第百七十九条第百七十七条前段に該当するので、その所定刑期範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二十五条により本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人に負担させることとする。
なお弁護人は被告人は自己の意思により犯行を中止したものであるとし中止犯の適用を主張するので按ずるに、中止犯の要件である「自己の意思に因り止める」とは、必しも悔悟に出ずることは要しないが、外部的障礙の原因が存しないに拘らず内部的原因に因り任意に実行を中止することであるところ、本件において被告人が被害者よりいま月経だから駄目だと告げられ姦淫を諦めたことは判示のとおりで、被告人が姦淫を思い止まつた契機即ち犯罪を遂げなかつた原因が被害者が月経中であるという外部的事実の存在にあつたことは明白であり、この事実の存在は社会通念上性交をなすについて通常障礙とされるところであるから、被告人がかかる外部的障礙により姦淫を諦めたことは内部的原因に因り任意に実行を中止したことに該らないことは明白と謂うべく、弁護人の該主張は到底採用できない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 菅原二郎 小沢博 竹田稔)